緑蕪堂日記

現状を追認しない

ThinkPad E585導入記

まえせつ

とりあえずインストールが一段落したので色々と書き残すことにする。

2年前にE560を購入して以来の買い替えである。

その際CPUはIntelの3540M→6200Uというアップグレードで、計算力自体はほとんど向上していなかった。そこに鳴り物入りRyzenが登場し、Intelの様々な問題が重なったのもあって技術革新のビックウェーブに乗るために是が非でもRyzen機が欲しくなった。本来は4月に出るとアナウンスされていてまだかまだかと待っていたのだが、去る6月16日に発売されていることに気づいて即注文した。

2年前に比べSSDが半額ほどの相場になっている反面、メモリの値段が倍ほどになっていたので、オプションでメモリを増設したほうが安いという前回では考えられない状態だった。結局、ストレージはHDD、メモリは16Gで注文、後にSSDに交換という戦略で購入することにした(この選択が後に若干の悲劇を生むことになる)。

7月2日が最速お届け日となっていたがその後音沙汰なく、注文の10日後に遅延の連絡、7月6日に発送、12日に到着という運びとなった。

 

所感

  • 小さい
  • 軽い
  • メンテナンス性は低下
  • 天板が金属製で筐体の剛性が高い

筐体はE560(見た限りではE570も)から大きく変更されており、光学ドライブが廃止、プラスチックだった天板が金属製になり、小型軽量化されている。電源もUSB Type-Cに変更、M.2 SSDスロットが追加されており、廉価版ThinkPadというよりはTシリーズのお下がりという印象になった。バッテリーも取り外し式から内蔵になっている。

光学ドライブ廃止は賛否が分かれる所だが、未だにしょっちゅうCDのリッピングをしている身としてもこの変化は喜ばしい。2年ほどE560を携行していたが、ベゼルがバキバキになってしまっている。光学ドライブよりも筐体が軽く丈夫になるほうが嬉しい。そして小型化に伴いキーボードの右側のキーが詰められている。自分にとっては全く気にならなかったが、カーソルキーとPgUP/PgDnの間に隙間が出来て打ち間違えにくくなっているのは地味に嬉しいポイントであった。

E560ではメモリ/ストレージ交換用のハッチが設けられ、ネジ3本でキーボードの交換が可能だったが、E580系では底板が一枚になっていて、何を換えるにもとりあえずこれを外さないことには始まらない。何箇所かツメで留まっているので分解にマイナスドライバーか何かで隙間をこじ開ける必要がある。

ストレージは2.5インチとM.2スロットの2系統。初めてM.2規格でSATA接続のSSDを購入してその小ささに驚いたのだが、これが実は不正解。NVMe規格のSSDしか認識しないので注意されたい。互換性があると思っていたが、購入時のオプションにはNVMe接続のSSDしか無いことからデスクトップ用ならともかく廉価PCのマザーボードなので機能を絞っていると頭が回っていても良かった。SATA接続の方が価格が安く目がくらんでしまったのもあっただろう。SATA接続のものは将来使うことにして、NVMe規格のSSDを買い直し、無事認識するに至った。

他にも変更点はあるが、地味なので割愛。

 

Gentoo Install Battle

Gentoo Installの枕詞であるThinkPadを買ったので当然GentooをInstallする。Gentooは英語が読めれば誰でもインストールできる*1のでオススメのOSである。前回はそのままストレージを移植するだけだったので、ゼロからGentooをインストールするのは初めてインストールした4年ぶりぐらいになるだろう。先に余っていた2.5インチSSDWindowsをインストールしておき、物理的デュアルブート体制を組む。WindowsはあるとBIOSの更新に便利である。UbuntuをインストールしてあるUSBを差しいざ起動、と思ったがいきなり動かない。ググった所、次のブログが動くカーネルパラメーターを既に調べておいてくれていた。感謝!

Getting Linux to boot on Lenovo Thinkpad E485/E585 | Evil Azraels Stänkerblog

intremap=off

spec_store_bypass_disable=prctl

カーネルパラメーターに加えることで無事に動いてくれる。当初noapicを使うと良いとのことだったのだが、これを使うとサスペンドカーネルパニックを起こすのか固まってしまうので注意されたい。

久々にGentoo Installの公式ハンドブックを頭から読んでインストール作業を行った。ブートパーティションのフラグを間違えるとかfstabとカーネルコンフィグのルートディレクトリの指定の仕方が違うとかのポカミスで再起動できずに時間を溶かしはしたが、4年の経験値があるのでその後は万事順調である。AMD関係の設定は一通り公式Wikiの説明の通りに書くことで無事動いてくれた。4コア8スレッドだとコンパイルが飛ぶように早いが、流石にリッチなGUI環境を整えるとなるとコンパイルに寝て起きるぐらいは掛かったと思う。6200Uだと動画を見る際にテアリングが発生したり、外部モニターとの接続を切るとたまにGnomeが落ちるなどの不具合があったのだが、今はそのような症状は一切無く、ほぼ完璧に動くと言って差し支え無いだろう。

省電力に関しては苦手なようで、負荷なしの状態でもクロックが1.3GHzよりは下がらず、400MHzがミニマムだった6200Uに比べ、powertopで見てみるとアイドル時で3W程度差があるようでこれが駆動時間に直接効いてくる。とはいえこのクラスのPCであれば充電器を持ち運ぶ必要があることには変わりないので、圧倒的(コスト)パフォーマンスを考えれば十分許容範囲ではないだろうか。

AMDLinuxThinkPadで快適なPCライフ、いかがでしょうか。

*1:真面目な話、Ubuntu等のOSだと大型アップグレード時に設定ファイルを吹っ飛ばしてくれたりするので、長い目で見るとソフトの更新に係る設定ファイルの変更を逐一ユーザーの目に通すGentooの方が楽だと思っている。

超幾何微分方程式と局所大域原理

はじめに

これは

Math Advent Calendar 2017 - Adventar

の17日の記事です。

 

前口上

微分方程式論には数論の研究者が数多くの貢献をしている。全ての数学がひとつであったGaussやRiemannの時代はさておき、モダンな所ではリーマン面上でのRiemann-Hilbert対応に関する一連のDeligneの仕事*1や、Fuchs型の常微分方程式の分類理論に関するKatzのrigidityの理論*2など。最近では不確定特異点の分類に関するKedlayaの仕事*3や、Katz-Laumonによって導入されたWeil予想で用いられるFourier変換を複素解析へ輸入した結果*4など、様々な仕事がなされている。

 

以上の結果は70年代にDeligneが«病理的に»考えていたという\ell進perverse sheafとholonomic D加群(より具体的には数論のwild ramificationとやらと微分方程式の不確定特異点)との類似にまつわる研究である。今回はもう少し初等的だが、Beukers-Heckman*5による数論と微分方程式論が交錯する不思議な定理を紹介したい。超幾何微分方程式のパラメータをどのように与えれば代数解が得られるかという問題に対する回答である。

 

局所大域原理

専門外なので僭越ながら局所大域原理(またはHasse原理)についてざっくり説明すると、方程式が有理数解を持つかどうかを調べるのに、\mathbb Rと、ほとんど全ての素数 pについて\mathbb Q_p上での"局所"解を持てば、元の方程式も\mathbb Q上で解("大域"解)を持つだろう、という数論の人々に深く信仰されている指導原理である。加藤和也御大流に言えば、「素数さんたち(局所体)が力を合わせれば大域体\mathbb Qと同じだけの力を持っている」、といった所か。

「原理」と呼ばれるだけあってこれが実際に成り立つかどうかは場合による。三次形式の場合など古くから反例がいくつも知られている。聞く所によれば不成立の度合いを、素因数分解の一意性の障害であるイデアル類群や、Tate–Shafarevich群、Brauer-Manin障害なるものを使うと測れる、というアイデアがあるそうだが、統一的な理解にはまだ及ばないようである。

この局所大域原理の考え方を(常)微分方程式に敷衍したのがGrothendieck–Katzのp-曲率*6予想である。線型常微分方程式が代数的な時、すなわち係数関数が代数関数であって、各係数も有理数であるとき、前述の代数方程式の場合と同様に解の代数性が判定できるだろう、というものである。微分方程式は線型の場合ですら最も簡単な部類の方程式、例えば

y'-y=0

 の解はご存知の通り超越関数となるので、解が代数関数になるのは只事ではない。

超幾何微分方程式

さて、(n,m)型の(一般)超幾何級数{}_nF_mとは次の級数である。

\displaystyle {}_nF_m=\sum_{ k=0}^{\infty}\frac{ (\alpha_1)_k \dots (\alpha_n)_k}{(\beta_1)_k \dots (\beta_m)_k k!} z^k

ここで(x)_k=x (x+1)\dots (x+k-1)はポッホハマー記号である*7

特に{}_2F_1はGaussの超幾何級数である。対数関数や楕円積分などはGaussの超幾何関数で表す事ができる。より一般の型の超幾何級数を用いれば三角関数や指数積分など、多くの初等関数や特殊関数を表すことができる。これらはほとんどGaussの手によって計算され得られた結果だそうだ。

 

オイラー作用素\partial =z\frac{d}{dz}に関する単項式z^k微分を考えると次の公式を得る。

 \displaystyle \partial z^k =kz^k

 \displaystyle\partial^m(z^k) =k^m z^k

 \displaystyle P(\partial)(z^k) =P(k)z^k

 

ここで P(X)は(形式的な)多項式である。この公式から超幾何級数が満たす線型常微分作用素

 \displaystyle {}_nD_m= (\partial -\beta_1-1)\dots(\partial-\beta_m-1)-z(\partial-\alpha_1)\dots (\partial-\alpha_n)

が得られる。{}_nD_m u=0を(一般)超幾何微分方程式と呼ぶ。一般の型の場合は特異点に不確定特異点を持つ場合がある(合流型が典型)。(n,n-1)型の場合、n=2の場合であるGaussの超幾何微分方程式と同様、z=0,1,\infty全ての特異点が確定特異点となるn階のFuchs型の微分方程式となる。以下ではBeukers-Heckmanに合わせて超幾何級数の分母の k!の部分もパラメータとした場合に相当する次の微分方程式を考えることにする。

 \displaystyle D(\alpha; \beta)=(\partial -\beta_1-1)\dots(\partial-\beta_n-1)-z(\partial-\alpha_1)\dots (\partial-\alpha_n)

 

n階の線型常微分方程式にはn個の線型独立な解が(genericに)存在するので、超幾何級数の他にn-1個の「見えない」解が存在することになる。これら全ての解が代数的かどうかを微分方程式のパラメータを見るだけで簡単に判定できる、というのがBeukers-Heckmanの結果である。

 

z=0, \inftyでの特性指数*8はGaussの超幾何微分方程式と同様、それぞれ1-\beta_i,\alpha_iで与えられるので、モノドロミーはそれぞれb_i=\exp 2\pi i \beta_i ,a_i=\exp 2\pi i \alpha_iで与えられることになる。

この微分方程式のモノドロミー群H=\langle h_0,h_1,h_\infty\mid h_\infty h_1h_0=\rm Id\rangleであり、h_\infty,h_0^{-1}固有値の集合をそれぞれ\{a_i\},\{b_i\}, a_i,b_i\in\mathbb C^{\times} とする。モノドロミー群が既約になるようにgenericな仮定としてa_i-b_j\notin \mathbb Zをおく。このときz=1の周りのモノドロミーh_1\textrm{rank}( h_1-\rm Id) =1(この性質を複素鏡映と呼ぶ)をみたす。逆に、各固有値として\{a_i\},\{b_i\}, a_i,b_i\in \mathbb C^{\times} を与え、これに対応する随伴行列A,Bをとり、h_\infty=A, h_0^{-1}=Bと置けば、h_1=A^{-1}Bは複素鏡映となり、対応する超幾何微分方程式を得ることが出来る。この辺の議論はKatzのrigidityにも関係あるが詳細は割愛。

 

定理

パラメータの集合 \{a_i\},\{b_i\}が変換 z\mapsto \bar{z}^{-1} について不変であるとき、非退化でモノドロミー不変なエルミート形式Fが存在する。

 

 

定理

|a_i|=|b_i|=1とし、a_i=\exp 2\pi i \alpha_i, b_i=\exp 2\pi i \beta_i, \alpha_i,\beta_i\in [0,1)となるようにとり、(適当に添字を入れ替えて)添字に関して単調増大になるよう\alpha_i, \beta_iを取る。このとき符号(p,q)は次で与えられる。

 \displaystyle |p-q|=\sum_{i=1}^n(-1)^{i+m_j}

ここでm_j=\{# k\mid \beta_k < \alpha_j\} とした。

 

この定理から、このエルミート形式が定値であるのと、\alpha_i, \beta_iが交互に並ぶのと同値である。このような状態をiteratedと呼ぶことにする。

 

モノドロミー群H(a,b)がiteratedであるのとユニタリ群の部分群であるのは同値である。

 

主定理

パラメータが1のべき根であり、h\in \mathbb Z

 \displaystyle \mathbb Q(a_1,\ldots,a_n,b_1,\ldots,b_n)=\mathbb Q(\exp \frac{2\pi i }{h})

となるよう取ったとき、モノドロミー群H(a,b)が有限群であるのと、hと互いに素な任意のk\in \mathbb Zに対して集合 \{a_i^k\},\{b_i^k\}がiteratedであるのは同値である。

 

モノドロミーが有限群ならば解は全て代数関数であるので、超幾何微分方程式の解の代数性がmod p reductionと固有値の円周上での配置というよく解らない謎情報で判定できることがわかった。これによりGrothendieck–Katzのp-曲率予想の特別な場合が示された事になる。

 

最後に

Beukers-Heckmanの原論文ではこの後具体的にパラメータを与えて微分ガロア群を求めて分類作業を行っている。こうした結果は保型形式の理論とも関係するようだが*9、自分には追いきれていない。

自分がこの論文よ読むきっかけとなったのは、tt*-Toda方程式において不確定特異点を持つ場合(モノドロミー行列の代わりにStokes行列が出てくる)でも似たような現象が知られるようになったからなのだが、この辺りの話はまた長くなるので割愛させていただく。

 

mod p reduction元の手法は微分方程式論でも度々顔を出す。古くはKatzによる

Nilpotent connections and the monodromy theorem : applications of a result of Turrittin

において、特別なPicard-Fuchs方程式の特異点が確定であるかどうか(これはa prioriには解の増大度に関する解析的な条件である)がmod p reductionで判定できることが示されている。最近では望月拓郎先生による不確定特異点の変わり目点の解消においてもmod p reductionの手法が用いられている。

自分は数論をプロパーにやっているわけではないので恐縮だが、この記事で数論と微分方程式論が交錯する不思議さと面白さを感じ取ってもらえれば幸いである。

*1:LNM163 «Equations différentielles à points singuliers réguliers»

https://publications.ias.edu/node/355

Singularités Irrégulières: Correspondance et Documents | Mathematical Association of America

*2:オリジナルは

https://web.math.princeton.edu/~nmk/wholebookRLScorr.pdf

で、より解析学テイストにまとめられているのは原岡先生の本 

http://www.sugakushobo.co.jp/903342_91_mae.html

*3:

[0811.0190] Good formal structures on flat meromorphic connections, I: Surfaces

*4:Bloch-Esnault 

projecteuclid.org

や、Sabbahによる講義録"FOURIER TRANSFORMATION OF D-MODULES AND APPLICATIONS"

http://www.cmls.polytechnique.fr/perso/sabbah.claude/livres/sabbah_chicago1205.pdf

*5:

EUDML  |  Monodromy for the hypergeometric function nFn-1.

*6:通常の微分方程式\mathbb P^1上の平坦接続、すなわち曲率がゼロな接続と見なすことが出来る。これの標数正のスキームのベクトル束における類似物がp-曲率である。記号を書くのが面倒なので詳しくはwikipediaを参照されたい。

p-curvature - Wikipedia

*7:収束性に関してはnとm+1の大小での場合分けで考えると頭の体操になる。

*8:解の局所的な挙動、特にモノドロミーに寄与する

*9:例えば

www.kyoritsu-pub.co.jp

Katzのrigidityはオイラー標数 そして幾何学的ラングランズ対応へ

自分の所属している研究室では「カッツ」と言うとまずKac-Moody代数のVictor Kacを思い浮かべる人しかいないのだが、数論で有名なNicolas Katzも微分方程式論に重大な進歩をもたらした。Katzのrigidityの理論は久々に数学をやっていて深い感銘を受けた理論なのでここに紹介してみたい。

詳しい歴史的な経緯については原岡先生の超幾何学校2014の講義録

http://www.math.kobe-u.ac.jp/HOME/taka/2015/hgs-note/04-rigid-sjis.pdf

を参照されたい。

かいつまんで話すと、ガウスの超幾何微分方程式に代表されるように、特異点が全て確定型であるFuchs微分方程式に対して、局所的なモノドロミーから一意に大域的なモノドロミーが決まってしまう物を昔からrigidと呼んでいた。局所的なモノドロミーの理論は19世紀に終わっている話だが、大域的なモノドロミーは本質的に解析接続の問題なので一般には難しく、現在でも大域的なモノドロミーを求める一般的な計算法は未だ知られていない。

Rigidであるということはどういうことかというと、各特異点のモノドロミー行列の共役類の組を与えたとき、この組を共役による作用で割ったモジュライ空間が1点になるということである。

Fuchs型の方程式に限ってもrigidか否かという大まかな分類しかなされてなかったが*1、Katzによる1996年の«Rigid Local Systems»*2において定義されたrigidityにより、方程式の「むずかしさ」を数値的に求めることが出来るようになった。\mathbb P^1から有限集合Sを抜いた開集合をj\colon U\rightarrow \mathbb P^1とおく。 \mathcal FU上の局所系とすると、\mathcal Fのrigidityをオイラー標数

\chi (\mathcal F)=\sum_{i=0}^{2}H^i(\mathbb P^1 , j_*\mathcal E \textit{nd}(\mathcal F))

により定義する。j_\ast \mathcal E \textit{nd}(\mathcal F) はモノドロミーの層というべきものであり、U, Sコホモロジーを分けて表現論的な考察をすることによりrigidityは具体的に計算出来て、\mathcal Fに対応する基本群の表現行列を\{A_i\}_{i\in S}とすると\chi (\mathcal F)=2-\sum_{i\in S}\dim Z(A_i)と具体的に計算できる。

この結果を微分方程式ときちんと対応させるには非共鳴的であるとかの条件が必要だが、大まかにはこんな感じである。オイラー標数といういかにも不変量然とした量がかなり具体的に計算できるのはとても強い。

 

局所系が既約である場合に、このrigidityが2に等しいこと(cohomologically rigid)と大域的な局所系が一意に定まること(physically rigid)が同値であるというのがKatz(-大島)理論の基礎となる定理である。この後addittionやmiddle convolutionという操作によりrigidityを保ったまま階数を一つ減らすことが出来、階数1という簡単な場合に帰着させることが出来るというのが理論の大筋である。

 

 

そしてNHKの白熱教室でお茶の間にも有名になったEdward Frenkelさん(とGross氏)が「ふたりのカッツ」*3アトリビュートした論文を書いている。

[0901.2163] A rigid irregular connection on the projective line

これはKatzの仕事の不確定特異点の場合への拡張で、幾何学的ラングランズ予想で重要なoperをある程度システマティックに構成できるというものである。

KatzとSGA7.II«Groupes de Monodromie en Géométrie Algébrique»の共著者であるDeligneは«Singularités irrégulière: correspondance et documents»*4において「70年代ごろ、不確定特異点をもつベクトル束の接続について«病的»に考えていた。」と述べている。70年代のDeligneの仕事といえば混合Hodge理論やWeil予想の解決が有名だが、こうした仕事の裏では平坦接続の不確定特異点\ell進層の暴分岐との類似が考えられていた。Deligneは70年に«Equations Différentielles à Points Singuliers Réguliers»において後の一般的なholonomic D加群に対するRiemann-Hilbert対応のプロトタイプとなった代数多様体上の平坦接続に対するR-H対応を打ち立てた。ある意味片手間で微分方程式論の大きな理論的基礎を与えている辺りDeligneの鬼さ加減が垣間見える。こうした問題意識が(幾何学的)ラングランズ予想という(自分ではふわっとした理解すら出来ていない)巨大プロジェクトに収斂していくのは趣深い。

*1:Rigidでなくとも特別な事情によって大域的なモノドロミーがわかるものが大久保氏などの功績により散在的には知られてはおり、その後の微分方程式サイドでの理論の進展の礎となっている。

*2:https://web.math.princeton.edu/~nmk/wholebookRLScorr.pdf

*3:ふたりは同い年で同じ12月の生まれらしい。

*4:Malgrangeを始めとする微分方程式の研究者との書簡集

Gentooでぴゅあ64bitデスクトップ環境

gentoo.hatenablog.com

リンク先を読んでもらえれば全て終わりなのだが、それではつまらないので補足しよう。

GentooではGCCから何まで基本的に全て自前でコンパイルするので、32bit用のライブラリをビルドする必要があるパッケージはコンパイルに約2倍の時間がかかる上に容量も取る。一方ナウでヤングなソフトウェアでは32bitでしか動かないパッケージは(ほぼ)存在しない*1のでほとんど32bit用のソフトをコンパイルするリソースは無駄になってしまう。こうした事情からGentooではインストール時点でno-multilibを選べる上に、パッケージのフラグなどの諸々の設定を前もってよしなに設定してくれているprofileでno-multilib用の設定が提供されている。一方、デスクトップ環境用にもprofileが用意されているのでデスクトップ環境を作る時にはそちらを選ぶ必要がある。profileは(eselectで)一つしか選べないと思っていたので、今までは--excludeオプションでgccglibc、sandboxを更新しないようにしたり、逆にこうしたパッケージを更新したい時は一々profileを切り替えるという手がかかる方法を取っていた。実はこうしたことをしなくても良いようにプロファイルをミックスすることが可能、というのがリンク先の記事で書かれている。

自分の環境ではsystemd+gnomeとno-multilibを使いたいので、/etc/portage/make.profileを一端unlinkし、/etc/portage/make.profile/parentに

 

/usr/portage/profiles/default/linux/amd64/13.0/desktop/gnome/systemd

/usr/portage/profiles/default/linux/amd64/13.0/no-multilib

 

などと書けば良い*2。やったね!

 

*1:Steamあたりは悔い改めて欲しい。Skypeも以前はダメだったがskypeforlinuxの登場で64bitオンリーでも使えるようになっている。

*2:parentファイルを見れば実はsystemd+gnome用のprofileもそのようにして設定されているということが分かる

ジジェクおじさんアメリカ大統領選を語る

アメリカ大統領選が目前に近づいているが、個人的にはテレビを余り見なかったせいか、それとも両候補の泥仕合にうんざりしたのか全く大統領選と言われてもピンと来ない。これには前回オバマ大統領が選出された時があまりにドラマチックだったこともあるだろう。

大統領選の記事の関連記事欄に「クルーズ氏、ヒラリー氏が優勢か」という一年前の見出しを見て一瞬クルーズって誰だっけ・・・となったあたり隔世の感がある。それほど”予想外”だったトランプ氏の台頭だが、彼を単なる粗野で下品な成金と見なすことは最早できないだろう。彼をここまで押し上げてきたアメリカのムードは21世紀が孕む問題を早くも析出させたものだからだ。そんな事情を我らが革命大好きジジェクおじさんが熱く語っている動画がなかなか面白かったので意訳混じりに訳してみた。

——あなたがアメリカ人だったら誰に投票しますか?
——トランプ。私は彼に懸念を抱いているが、ヒラリーこそ真に危険だと考えている。なぜか?彼女はとても我慢ならない、全てを包括する連合を作りあげたからです。たとえば私がトランプに完全に同意したのは、あのバーニー・サンダースがヒラリーを支持を表明した時の彼の発言*1だ。彼はそれを欺瞞であると言い、オキュパイ・ウォールストリートの参加者がリーマン・ブラザーズを支持するようなものだと言ったのです。

(中略)どの社会においても如何に政治を動かし、コンセンサスを確立していくかという不文律のネットワークの総体が存在します。トランプはこれを撹乱しました。そしてもしトランプが勝てば、共和党民主党の二大政党が共に基本に立ち返り、自省しなければならず、多分何かが起きるのではないのでしょうか。
これは私のトランプが勝利した時のやけっぱちな、どうしようもないほど絶望的な希望だとして聞いてほしいのですが、アメリカがまだ独裁的な国でなく、彼がファシズムを持ち込むことはない。これこそ大きな覚醒といったものになりうるのです。新しい政治のプロセスが生まれはじめ、引き起されるのではないだろうか、と。
(中略)だが事態は今、非常に危険であるというのは良くわかっています。白人至上主義者たちだけでなく、トランプ自身が口にして憚らない上に、そうした見立てがあるので彼はおそらくやってしまうだろうが、アメリカで最高裁がどれほど重要かご存知でしょうけど、彼はそれに右翼的人物を指名すると言っているのです。そうした危険があるのですが、ヒラリーがこの独裁的な流れに乗ってしまうことを私が最も恐れているのです。なぜなら彼女は冷戦支持者であり、銀行と癒着し、社会進歩主義者のふりをしているから。(終わり)

 

ジジェクは自由と正義の名の下に散々えげつないことをやってきたアメリカという国と、外面の良いクリーンなイメージのヒラリー氏の間に相似、あるいは一体化を見て取っているのだろう。そしてトランプが作り出した強大なリーダーシップを求める流れを隠れタカ派であるヒラリー氏が利用する事態を最も懸念している。まあいかにもジジェクおじさんが言いそうなことである。

日本においても、誰が頼んだわけでもない、降って湧いて来たTPPが”賛成多数”で速やかに可決された一方で、以前より問題になっている少子化対策や労働問題は遅々として進んでいない。このような話は裏では外交であるとかロビイングであるとか表に出てきにくい政治力学で物事が進んでいるわけである。日本では論外という風潮があるトランプだが、こうした不文律をぶち壊してくれるのではないかという淡い期待は十分理解できるものではないだろうか。

*1:Bernie Sanders endorsing Crooked Hillary Clinton is like Occupy Wall Street endorsing Goldman Sachs.

ThinkPad E560導入記

先日レッツノートヒートシンクが浮いていることが判明しブチ切れた勢いでポチったE560が昨日届き、そこそこ使えるようになったのでその過程を書き残す事にする。

 

おおまかなスペックはi5-6200U、メモリ8G1スロット、FHD液晶、500GBのHDDといったところ。E570発売に伴うクリアランス価格で中々安く手に入ったのではないかと思う(財布には痛い)。ガバガバ納期に定評のあるLenovoだが、自分の場合は順当に9日で届いた(注文時には最短で11月20日とあったのでやはりガバガバである)。

 

先に雑感を羅列しておくと、emerge(コンパイル)をぶん回しても55℃程度で安定しているのには感動した。携行するつもりで買ったのだが想像以上に大きかった(アホ)が15.6インチのFHDだけあって画面を見る分にはまあ快適である。Tweetdeckのロード画面のグラデーションが段々になってるあたり色域は狭そう(これがMacなんかだと綺麗に出る)。レッツノートのi7-3540Mに比べて若干シングルコア性能が落ちているが起動時間は14秒ほどで殆ど気にならない。電池が軽くその分稼働時間が短そうであるが相当省電力化が進んでいるので然程問題無さそう。ThinkPad名物の赤ポチはコントロールが難しいがキーボードからポジションを崩さずにカーソルを動かせるのは中々良さそう。WindowsではDolbyが入ってるだけあってスピーカーが結構それっぽい音が出る(これはレッツノートのが酷すぎるというのはある)。

 

Windowsには興味がないので当然Gentooの入っているSSDを移植するわけなのだが、無駄にUEFIでインストールしてしまっていたため、Linuxのbootable usbからchroot*1して

grub-install --efi-directory=/boot/efi

を走らせる必要があった。

また、wifiのドライバ(iwlwifi-7265)を取ってきてコピーする必要があった。

SDカードリーダーで割とハマってしまったのだが、結論だけを書けばカーネルのconfigで

CONFIG_MFD_RTSX_PCI=m

CONFIG_MMC_REALTEK_PCI=m

CONFIG_MEMSTICK_REALTEK_PCI=m

とかやれば動くようになった。lspciを叩くとか基本的なことができていればもう少し手間が掛からなかったと思う。

その他のバックライトやオーディオ、ファンクションキー周りなどGentooを初めて導入した時ハマった所は聞き分けよくそのまま動いてくれた。このあたりはカーネルのconfigにTHINKPADなんとかという変数がいくつかあるだけのことはある。

少なくとも向こう3年は頑張って欲しいが果たして。

*1:ファイルにコマンドを書きつけてコピペすると一発でchrootできて爽快

レッツノートを分解したら愕然とした話

4年目に突入したCF-SX2なのだが、ちょっとしたブラウジングでCPUの温度が90度を越えるようになってしまい、基板やら中のSSDに危険を感じるようになった。保証も切れてしまったのでダメモトで分解してグリスの塗替えを試みることにした。手順は分解工房さんのページ通りで問題なく、苦労しながらもヒートシンクまでたどり着いて愕然とした。出来る限り薄く塗られるべきとされるグリスが1.5ミリほどの厚みで山盛りになっていたのである(GPUの方のグリスは順当な厚さであったのであろう、カピカピになっていた)。当初は工員の不手際を疑ったのだが、よくよく見てみるとヒートシンクそのものがCPUから浮いているではないか。十円玉がすっぽり収まりそうである。これではいくら熱伝導性のよいグリスを使っても効果は薄い。一応アイドル時では常に60度を超えていたのが50度ほどに落ち着きはしたのだが、やはり負荷がかかると以前と事情はさほど変わらない結果となった。

こういう意味不明な設計で国産の安心を売りにしているのだから言葉も出ない。豪華客船の建造において設計を施工を並行してやったなどというお粗末な話が記憶に新しいが、だんだん日本のメーカーもマトモなモノづくりが出来なくなってきてるのかもしれない。